木質バイオマスのエネルギー利用の基本は熱利用で、発電と比較して木質資源の持つエネルギーを無駄なく使え、また小規模から利用可能なため、地域地域で取り組むことができるのが魅力です。
しかしながら国内ではバイオマス熱利用が十分に普及している状況にありません。その最大の要因が“採算性の確保”です。特に公共施設への導入においては採算性が確保できている案件は極めて少なく、それが地域での広がりにつながらない最大の要因と考えられます。
こうした状況を打破するために期待するのが民間のエネルギー会社による「ESCO型のエネルギーサービス」です。民間の資金、ノウハウを生かしたバイオマスボイラによる売熱サービスを普及させていくことで、バイオマス熱利用をビジネス化し、地域地域での面的導入を進めていくことが、今後の国内でのバイオマス熱利用を大きくけん引していくと期待しています。
国内の実態とバイオマスボイラの導入障壁
日本国内に導入されたバイオマスボイラは2,000台、かたやバイオマス先進国のひとつオーストリアでの導入台数は27万台と言われています。
オーストリアではバイオマスボイラが社会で広く認知されているだけでなく、導入によって燃料費が削減できるなど、経済的メリットが得られることがわかっているため、広く社会に定着しています。バイオマス燃料の流通体制も各地で整っており、性能の良いボイラを適正な価格で調達する市場も出来上がっています。さらにバイオマスによる地域熱供給も普及しており、バイオマス熱利用がビジネスとして社会に定着しているのです。(※コラム参照)。
一方、日本ではバイオマスボイラが導入されたものの、適切な運用がなされず思ったような効果が出ない、トラブルが頻発するといった事例も見られたり、公共施設に導入したもの単発に終わり地域でのその後の普及につながっていないといった例も多々見られたりします。
バイオマスボイラ導入や継続の課題
国内でバイオマスボイラの普及がうまく進まないことには、このような要因があります。
- 潜在的ユーザーのバイオマスボイラに対する情報不足。
- (情報不足に端を発した)燃料調達や設置方法を含めた運用上の不安。
- 建設費用のイニシャルコストが高い(投資回収に対する不安)。
- 設計・施工のエンジニアリング能力不足。
- 燃料供給事業者とボイラユーザーの各々の理解、または相互理解の不足による燃料性状等を原因とした機器のトラブル。
- メーカー、代理店のフォローアップ体制が脆弱。メーカー任せでメンテナンス・修理等が行われ、余計に時間と費用がかかる。
自治体がバイオマスボイラを導入する際の課題
さらに自治体が公共施設に導入する案件では以下のような課題があります。国内での特に中小型のバイオマスボイラの導入は公共施設での導入を中心に進んできた面がありますが、そもそも自治体主導では普及する構造にないとも言えます。
- 環境・地域林業への貢献を重視し、経済性が軽視されている。そもそも自治体主導では経済原理が働かない。
- 自治体内部に専門性がなく、機器選定、設計監理等をする能力や体制もないまま、メーカー任せの設計・施工となってしまう。
- 公共の積算基準により、建屋・サイロ等一体で工事費が割高になる。
- 担当者の異動、指定管理者の異動でスキルが継承されない。
などの課題が指摘されています。
ヨーロッパではバイオマスの熱利用がビジネス化
バイオマス先進国のオーストリアでは国が消費する全エネルギーの14%が木質バイオマスで賄われており、バイオマス熱利用も社会に定着しています。
林業家のビジネス意欲も高く、移動式チッパーを共同購入して燃料供給ビジネスを行う者もいれば、協同組合を作って地域熱供給プラントを投資して整備し、熱供給のビジネスを行うような「エネルギー林業家」も各地で見られます。エネルギー、交通、水道など様々な公益サービスを担う都市公社「シュタットベルケ」でも、バイオマスによる地域熱供給が収益の柱とするところも見られます。
このようにオーストリアではバイオマス熱利用が経済的に自立し、ビジネスとして社会に定着しているのです。
目指すべき方向
これらの現状を踏まえて、バイオマスの熱利用を進めていく上では次のような方向性をしっかりと定めて、取り組みを進めていくことが肝心です。
- 地域に、バイオマスボイラの面的な導入を進める
- バイオマス熱利用の経済的自立、ビジネス化を進める
そして
- 導入がゴールではなく、運用段階も含めて計画し、
- 地域で安心して利用できるシステムの構築により、ボイラ導入によって得られる地域効果を着実に発揮していく
ことを目指します。
そこで次に、これらを実現していくための具体的な方法を、順に示していきます。
地域でバイオマス熱利用をビジネス化 ~面的導入を視野に入れて~
これまでは「公共施設にまず一つ入れてみる」で進んできた面がありますが、これからは地域内の化石燃料系ボイラを順次バイオマスに切り替え面的に広げていくような「地域への面的導入」を視野に、長期的・マクロ的な視点で戦略的に計画立てていくことが重要です。また経済原理の働く民間が主役となって地域単位でのバイオマス熱利用のビジネス化を進めていくことが望まれます。
【図】地域に広げる普及イメージ
民間が主体としてビジネス化を進めていく中でも、地元企業等が主体となり「地域エネルギー会社」を設立し、ボイラの運転管理を担ったエネルギーを販売するビジネスを地域地域で立ち上げていくことが有効と考えます。「燃料の安定供給体制」「設計・メンテナンスの技術力」「事業としてのマネジメント能力」を有するエネルギー会社が活躍することで、地域において経済的に自立するバイオマス熱利用の普及が期待されます。
エネルギー会社は “ESCO型エネルギーサービス”で
ESCO(エスコ)はEnergy Service Companyの略です。
バイオマス熱利用におけるESCO型事業とは、民間のエネルギー会社が主体となり民間企業のノウハウや資金を活用しバイオマスボイラ及び熱電併給設備を導入・運用することで、バイオマスボイラの本来の性能と経済性を発揮し、再エネ熱利用の促進と脱炭素化に貢献するビジネスです。事業者は、化石燃料系ボイラからバイオマスボイラに転換したことによる需要家のメリットを対価として受取ります。
バイオマスボイラを導入する場合には、下記のようなスキームとなります。
エネルギー会社は熱需要家の施設内もしくは近接した敷地内にバイオマスボイラを設置し、これを運用します。生産した熱エネルギーを熱需要家に供給・販売することになります。
【図】バイオマスボイラを導入するにあたって、エネルギー会社を仲立ちとしたESCO型スキームのイメージ
ESCO型サービスのメリット・デメリット
このESCO型の事業にもメリット・デメリットがあります。
下記の表をみると、熱需要家に対するメリットが大きい反面、エネルギー会社がリスクを負担する構図が見て取れます。新たなビジネスとしての期待値は大きく、民間企業のノウハウを活かした積極的な取り組みができる一方で、このようなデメリットを自治体や熱需要家と契約の段階から相互に理解し進めていくことが重要であると言えます。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
熱需要家 (熱を利用する施設) |
・初期投資・管理が不要 ・エネルギーコストの安定化 ・環境面、地域貢献等の施設の価値向上 |
・地域エネルギー会社の倒産リスク |
エネルギー会社 (木質バイオマスから熱を生産し販売する会社) |
・顧客獲得機械の広がり ・顧客拡大、スキルアップにより収益性拡大 ・地域企業の新たなビジネスチャンス |
・熱需要家の脱退リスク ・需要の変動リスク ・資金調達・返済リスク ・供給責任・補償リスク |
自治体 (公共施設にボイラを導入する場合) |
・行政サービスの民間移譲 ・議会の理解 ・資金の域外流出抑制 ・地域の脱炭素化 ・地域産業の振興および雇用の創出 ・防災、減災への寄与 |
・許可権限者としての監督責任等 ・契約スキーム・事業構築プロセスが未経験 |
官民連携のESCO型エネルギーサービスの展開
バイオマス材の積極的な活用が地域のCO2削減に寄与することをはじめとする多くの公益性が認められるバイオマスによる熱エネルギーサービスを広く展開するためには、地域におけるスタートアップとして、上に書いたようなリスクをふまえてまずは自治体が公共施設にボイラを導入し、次に民間施設への面的な導入を展開します。
エネルギー会社から自治体(公共施設)が熱エネルギーを購入することで、ESCO型サービスの初期段階の事業リスクを低減し、下記のように事業化を支援することができます。
- 公共施設で一定規模の需要形成
- 公共施設における長期契約
- 行政との契約による金融機関の信用獲得
- 柔軟な契約形態による支援
公共施設へのエネルギーサービスを基軸において事業基盤をつくり、その後、民間施設に幅広く導入します。地域において、熱供給ビジネスが本格化すれば、これまで外に流れていたエネルギー費用が地域内で循環するようになり、経済への貢献が見込まれ、更に原料の需要が増えることにより地域林業の活性化につなげることができます。
【図】公共から民間へ:地域に広がるエネルギーサービス
地域に広くボイラが普及し、安定的に運用できた場合には、さまざまな効果が地域全体に波及すると考えられます。
地域にバイオマスボイラを導入することによって得られる効果
- 地域外へ流出していた化石燃料費を抑制
- 二酸化炭素排出量を削減、実質ゼロに
- 地域の森林資源を活用することによる、森林環境の保全
- 森林資源を活用することによる、地域内での資金循環
- 新たな雇用創出
このほかに、新たな税収が生まれたり、CO2クレジット制度を活用するによってあらたな収入が生まれることも効果として盛り込むこともできるでしょう。これらの効果の度合いは、地域の環境条件や規模、既存の産業との連携等によって異なります。
昨今の異常気象の影響で災害が頻発し、地球温暖化対策も、地域の課題も待ったなしです。
地域により抱えている事情も問題も様々ではありますが、できることから少しづつ始めてみませんか。
バイオマスを通じて地域のエネルギーシフト、脱炭素化、自然環境や生態系の保全、地域全体の経済振興・雇用創出、観光振興など地域循環共生圏の構築を目指していきます。
ESCO型の基盤構築は自己導入も促進
ESCO型エネルギーサービスの担い手となるエネルギー会社は、次のようなスキル、ノウハウが必要とされ、また経験を積む中でその能力もより高いものとなってくると考えられます。
- 安定した燃料調達
- 設備の設計からオペレーション・メンテナンスまで適切な技術フォローアップ
- プロジェクト組成から計画立案、ステークホルダー調整、契約、ファイナンス等の事業構築のノウハウ
これらのスキル・ノウハウを有する会社があれば、ESCOだけではなく地域におけるバイオマスボイラの自己導入を望む需要家にとってもより安心して導入を進めることが可能となります。エネルギー会社の存在は、自己導入も含めて地域のバイオマスボイラの面的導入をけん引していくものと期待されます。
【図】エネルギー会社が自己導入もフォローアップ
まとめてご紹介
ここまでの内容をスライドにまとめました。
お問い合わせ
- ESCO型のエネルギーサービスにチャレンジしたい
- エネルギー会社を作ってバイオマス熱利用を広げていきたい
ESCO型エネルギーサービスにおける当社の取組
(株)エネルギーエージェンシーつしま(長崎県対馬市)
2019年度、長崎県対馬市にある「湯多里ランドつしま」のチップボイラを新しいものに更新し、バイオマスへの代替率を100%とする計画を策定しました。
地元企業とともに当社も出資するエネルギー会社が、ESCO型のエネルギーサービスとしてお風呂とプールを併設する指定管理施設に熱を供給します。(2022年事業開始)
【図】対馬市における熱供給サービスイメージ
Allmende キテハ におけるエネルギーサービス(滋賀県長浜市)
国内での木質バイオマス熱利用の本格普及を目指して、当社が熱供給事業のプロトタイプモデルとして手掛けた、滋賀県長浜市での取り組みです。古民家を改修しチップボイラを導入、施設の暖房や給湯用の温水を供給しています。
>> 詳しくはこちらのレポートをご参照ください。
>> 当施設の視察を希望される方はこちらにてご案内しています。